頼りになるひと

頼りになるひと

「もう安心してください。あれに力はありません」

黒雲が遠くの果てまで去っていき、安堵した私に彼は得意気に笑みを浮かべて言い放つ。

「あれから黒龍が生まれなくて良かったわ」

「ええ。そうなるともっと厄介ですからね」

黒龍は戦を生むもの、そう言われてきてはいるが、どこから生まれたものかで変わってくる。

黒雲であればまさにそれだ。

しかし……

「いい黒龍もいるのよね」

彼は視線を私の方へ向けて、目を細めた。

「そう、ですね。まあだいたいは」

黒も紺も変わらない。深く暗くて落ち着く色。

「ただ……あの大洪水を起こした爪痕は大きい。みだりに口にせぬ方が良いかと」

「私たちの間では構わない?」

彼に甘えている。という自覚はあった。けど、これではあまりにも彼のひとが不憫だ。

ただ、愛した者が人だった、それだけのことだ。その人も龍であったかも分からない。

「ええ。私たちの間だけでは。構いません」

彼は深く頷いて応えた。承諾すると分かっていて聞くのは、私の悪い癖だろうか。

「黒が全く悪いものだと、争いが悪いと決めつけて避けるだけでは何も生まれない。かといって争いたくはない。平和でいたい。でも、戦いの歴史も尊いものだと思いたい……私もいるの。矛盾よね。こんなの」

自嘲気味に口にするのも普段は憚れるようなことを言ってしまう。あなたの前では取り繕えない。

きっと自分自身が、自分の出自を認めたい。そう感じている。

それがたとえ血塗られたものであったとしても。以前の自分も受け入れたい。受け入れた上で、描いていきたいんだ。あなたと。

「全く同感です。しかし、誰でもどこかしら矛盾の一つや二つ抱えているものですよ。思い悩まず、そのまま受け入れて」

一瞬伏し目がちな彼の顔を見上げた。

「私など矛盾だらけだ」

あなたの前では、と言いたげな瞳をたたえて笑う彼に控えめに笑いかける。

そう、きっと私も。

この世に良い悪いもないのなら、灰色も受け入れて。

そんな自分を抱いて生きていきたい。