
いつも遠くから眺めてた
笑い合う、誰もが囲まれている
その暖かな世界を。
俺にはその資格がない。
代わりに全てを与えられ、保証されている
安全な場所、確かな地位、約束された将来、
奪われることなどない、安定。
永久の豊かさ、どこまでも長い時を。しかし
全てがこの手にあって、ない。
「ずっと求めてた。暖かな灯りを」
彼は少しずつ語り始めた。
「無い物ねだりかもしれないが、それでもどうしても……暖かな光が欲しかった」
彼は伏し目がちに続けた
「最初からなければ、求めることなどないのだろうと思っていたが、それは違っていて、自分にもその可能性があったなら、こんな押し付けられた役割など、なんの価値もないと」
恵まれていると分かっている、分かった上で彼は話している。彼女はそれを嗜めるなどと野暮なことはできないと思った。
嗜める?そんな大層な存在ではないと、自嘲しながら。
「それぞれ抱えているものは違い、別々の悩みを持ってる。誰でもあなたと同じように。その暖かな場所でも、一見そうは見えないでしょうけど、空虚だったり、日々の生活に追われてる。自分を見つめ直す時もなく時間が過ぎて、なくなってく」
彼女はどう言葉を繋げようか迷う。
迷う上で彼女なりの言葉を探し紡いでいく。
「どちらがいいとは言えないわ。でも、私たちは……あなたも、暖かな場所にいる人々も、それぞれ目の前にあることを一生懸命にやって生きていく。そうしてこの世が支え合ってできてる。あなたはひとりじゃない」
彼の手に手を重ねた彼女の瞳も、少し下を向いていて、彼は彼女のその様子をじっと見つめていた。
「あなたの行動や思いが、その暖かな場所にいる人々を守ることになる。あなたが心の支えになっている。それを忘れないで」
「私はそれが分からない。人々は私のことなど気にもとめない。自分たちだけが、満たされているだろうと思う」
「本当にそう思う?あなたがその時できることをして、民がどれだけ救われてるか。あなたがこの世の創造主よ。あなたに感謝しない人はいない。少なくとも私は感謝してる」
「貴女にそう言われては、返す言葉もない」
彼は彼女にだけ見せるぎこちない笑みを、その忘れ去られた幼さを少しだけ見せてそっと閉じた。
「でも、少しだけ。もう少しだけ俺のままでいてもいいだろうか」
彼女の肩に額を預け、彼はふうと息をついた。
「ええ。もちろん」
彼女は静かに、その背中をそっとなでた。
