
手元の絵巻を見て、千迅の手は止まる。
対して、隣の千歳はさらさらと事もなげに、しかしそれを大事に描き進めている。
「いつも不思議に思うけど、君はどうして描き続けられる?煮詰まったりしないのか」
「あなたは煮詰まってる?」
「いいや、絵さえあれば文が浮かぶ。それが私の長所だと自負してるけど、絵がなかったら何を書けばいいのか途端に分からなくなりそうで」
千迅は自身の筆を少し強く握りしめた。彼女はそれを見て続ける。
「私も最初は何を描けばいいのか分からなかったわ。でも、先人の方たちの絵を見たり物語を見たりして、好きなものを見ていったら、自分が描きたいものが分かったの。描きながら探ってる」
千迅は頷き返しながら彼女の声に耳を澄ます。
「自分の好きを分かっていないと、何を描けばいいのか分からなくなるわ」
「じゃあ、私も私の好きな物語をたくさん読めば、絵がなくてもいろいろと書き進められるかな」
「それは、、、」
千歳は少し目を伏せがちにして言いよどむ。
「そうね。あなたって、瞬時に私の絵に文を添えられる。それももっとも相応しいものを」
彼女は何か思うところがありそうで、千迅はその様子に戸惑う。
「私の絵がなくても書けるとしたら、それはもう鬼に金棒かもしれないわね」
千歳の笑顔はどこか無理をしているようで、千迅には心苦しいかった。
「いいや、君と一緒だから鬼に金棒なんだ。一人だけじゃできなかったことが、表現の幅が無限に広がるだろ。それってとても素晴らしいことだ」
彼は言い切った。千歳は少し驚いた表情をした後、ふと笑みを浮かべた。
「私もあなたとなら、ひとつの絵に様々な物語を展開させることができる。あなたはなくてはならない存在だわ」
「君もね。君がいなければ、私は書く気力すら湧かないだろうよ、何か向かう先が見えなければ、手が止まってしまう」
穏やかに顔を見合わせて、笑い合う。
そうして今日も秋が深まる二人の夜がゆっくりと確実に進んでいる。
めぐる四季のように、そして、二人の絆の深さを物語るように。

