
長雨が過ぎ去った後の、からっとした空気と、澄み切った高い空に。
龍神たちの心も洗われたようで、どこかすっきりとしている。
「こんなに心地良い空気はいつぶりかしら。呼吸するのがとても楽だわ」
「とても居心地の良い。普段雑務などをしていると気付かないが、こう穏やかに過ごしていると、ようやく気付く。こんなに清浄化していたなんて知りもしなかった」
「夜月さまは黒龍としての公務に励んでおられるようで、感心いたします」
「俺が公務など行わない怠け者だと思っていたのかい?」
「ふふ、いいえ。ただ……最近とくにこちらにいらっしゃるので」
「暇ではないかと?まさか。忙しい合間を縫って、三鈴さんに逢いに来ているというのにつれないおっしゃりようだ。俺は悲しいよ」
ひとつも悲しいそうには見えない。
このように戯れを言うほど、二人の仲はだいぶ打ち解けていた。
「ただ三鈴さんが迷惑なら俺も控えるべきだろうが……」
「ふふ、まさか。私もあなたさまに逢えることを日々の楽しみとしていますのに、どうしてそのようなことが言えましょう」
ちらちらと、紅葉が舞って、それを眺めていた三鈴の視界に、きらりと光るものが見えて、あっと声をあげる。
「薄紅の龍は珍しい。かすかに綺麗な色が見えると思ったら」
「本当だ。俺も見たことがない」
彼女が見つけた未だ幼龍のそれは、ゆらゆらと揺らめいて二人の周りをひとまわりすると、
やがてどこかへ飛んでいってしまった。
「何か良いことが起こりそうだわ」
「ああ。……いや、もう起きている」
三鈴は不思議そうに夜月を見た。
「あなたとこうしていることこそが俺にとってのいいことだ。あなたに文を送る前はこんな風になるなんて考えもしなかった。俺は幸せ者だ」
真摯に思いの丈を打ち明けた夜月に、三鈴は頬を染めて視線を落とす。
「初めの頃はそのように素直な言葉を言っていらっしゃらなかったのに。こちらの調子が狂ってしまいます」
「はは。あなたにとっては面白くなかったかな」
「ええ、とっても」
少し眉をハの字に曲げて、彼女は彼を見上げた。
「翻弄されるなんて私らしくないもの」
「そうかな。俺はあなたのそういうところもあなたらしいと思うが」
「そうかしら。他の者には見せられないわ」
「見せなくてよい」
また晴れやかに笑う男に、三鈴は困ったような笑みを浮かべていた。
