
もっと早くこうしておけば
あの時もっと自分ができることがあったかもしれないと。
たまにふと思うことも
「何か思うところがあるなら」
ふと彼女がこちらを振り向き訊ねた。
「顔に出ていたかな。あまり表に出さないようにしていたけれど」
「気付かないようにしていた方がよかった?」
「いや。本当のことだからさ」
しかしなんといったものか。分からない。
すると、彼女はそんな時もある、と言いたげな表情で控え目に頷いた。
「これは私の思い過ごしならそれでいいのだけど……あなたもしかして、自分のことを責めてる?」
「それは……まあ、うん。そうかもしれない」
自分の感覚に未だに自信が持てずに、曖昧に返答をしてしまう。
「もっと君と足並みを揃えていくこともできたかもしれない、それなのに私はこれが君の望むことだと押し付けてしまって、君の本当の力を封じ込めてしまっていた」
彼女は静かに私の話に耳を傾けていた。
「愛しているつもりで、君の力を奪ってしまっていた。君が力を持てば私など、取るに足らない者だと思われるのが怖かったんだ」
「私こそ。あの時もっと自分軸を保てていたら、あなたを愛したまま自分の力をきちんと発揮できていたはずよ。私がまだまだ未熟だったってこと。あなただけのせいじゃない。だから自分を責めないで」
彼女の言葉がすっと自分の心に溶け込んでいく。いつも思うが、どうしてこうも彼女の気持ちまで自然と心に響き伝わってくるのか不思議で仕方ない。
「あなたはあまり自分のことを話さないから……まあ私もそうだけれど。だからこそ、こうして胸の内を明かしてくれて嬉しいわ。ありがとう」
「君はこんなことで嬉しいのかい?」
「ええ。とっても」
まだ肌寒い季節でも、既に心はほっと暖かく。
春の訪れを予感していた、それはきっとお互いが創り出した暖かさに違いない。