
雨の中、君と。
しとしとと静かな雨音に耳をすませていると、朝霧の向こうから誰かが歩いてくる。
「ここにいたんだ。何をしてたの?」
「雨音を聴いていたの。とっても心が落ち着くから。あなたは傘も持たずにどうしたの」
「私たちは濡れたって平気だろ。傘を持っている君も風流でいいけどね」
千迅がそっと千歳の手を包んだ。
「君はほっとくと好きにどこかへ行ってしまう。その気まぐれに私は振り回されてばかりだ」
「そんなに振り回した覚えはないけれど……」
「その自覚のなささ」
大げさにため息をはく千迅に、千歳は無邪気に笑った。
「でもこうしてあなたが迎えに来てくれるなら、私は幸せ者ね」
「そういうこと。雨音を聴くなら屋敷の中でもできるのに、わざわざ外に出なくても」
「こうやって紫陽花に包まれながら聴くのもなかなかいいのよ。幻想的で、自分がどんどん溶け込んで消えていくみたいに」
「怖いこと言うなあ……」
「そういうことじゃないの、無心になれるっていうか」
「ああ。それなら伝わる」
「ちょっと。何か私が不思議なひと、みたいに扱わないでよ。あなただって似たようなものよ」
「そうかな、どこらへんが?」
「その……ふわーとしてるとことか」
「くっ……ふわーとね。そうか、君が真面目過ぎるんじゃない?もっと私みたいにふわーとしてみなよ」
「嫌よ。あなたと同じになったら、二人してどこかへ飛んで行ってしまいそう」
「ははは、それは面白い」
二人で傘の中、談笑しているのも楽しく、いつもとは違った時間を過ごしている。
こういう時も悪くないとお互いがそう感じていた。
