憧れの人

憧れの人

今に歩んできた世界、時代が、遠い記憶になりつつある頃、

あの時のことが今のここに繋がっていたんだと、心が綻び緩む。

未だ経験も少ない幼い龍神が、ひとりの彼女のもとへ現れたとき。

彼女の瞳はきらめいて、その存在を待ちわびていたと言わんばかりにぐっと身体を堪えた。

距離を詰めて驚かせたくないという彼女の配慮である。

それでも心は踊る。

それを一度でも瞳に入れることができたならどんなにか。

しかし龍の少女は物憂げな瞳で自信がなさそうに俯いていた。

「私には何もない。空っぽなの」

「そんなこと……」

「そうなの。いつでもここが空虚で、何もない」

少女は胸元に手をあてた。彼女はそれをじっと見つめている。

「昔ある人が言っていたの。”ないなら見つけていけばいい”と」

彼女はぐっと自身の絵巻を抱いて少女を見る。

「私だって始めたばかりだもの。手探り状態でなにもないに等しい」

「そうなの?でもあなたには既に星のきらめきを感じる」

「最初はハッタリだったわ」

「ハッタリ?ふふ」

彼女の口から予想外の言葉が出で、少女は少し笑ってしまう。ただ面白いことに彼女はいたって真面目なのだ。

「それでもそうしているうちにホンモノになっていくのよ」

「そう……」

くすくすと笑いを堪えきれずにいる少女に、彼女の心にも灯がともる。

「決めたわ、あなたは、あなたの名は千珠。珠のように綺麗な瞳にぴったり」

「千珠。……素敵な名をありがとう。千歳」

一人と一匹の道ゆきはまだ始まったばかり。

それは繰り返し、めぐる時代とともに。

憧れの人 新たな夜の一頁