
ふと目が覚めると、いつも思う。
きっとこれが、かつて探していた、望んでいた日々だと。
「思ったけど、私が描いたものはサインを入れられるけど、あなたの文章はサインを入れられないわよね」
「そうだけど、何か思うところでもあるのかい?」
「それって不公平じゃない?あなたも書いてるのに」
「だから表紙に著者を書いておくのでは」
「そうだけど、表紙がなかったら、誰の文章か……」
「そうかな。それを言うなら、君の絵もサインの部分だけ切り取ったら誰の絵か……」
「それはないわ、絵は手癖があるもの……あ」
「はは、その通りさ。私の文にも癖がある。君と同じ。不公平なもんか。それにやっぱり君の隣にこうして表紙で名を連ねることができる、それだけでいい」
「私も嬉しいわ。……いつもそう思う。一巻一巻、あなたとこうして名を刻めるのが」
彼女が手元の絵巻に目を落とす。
千迅は何やら呆気にとられた様子で彼女をじっと見つめていた。
その視線に気づいた千歳が訊ねる。
「どうかしたの」
「いいや、君にしては素直だなと」
「そう?私はいつだって素直よ」
千迅が口を一文字に結び、じーっと彼女を横目で見た。
千歳は目を丸くしていたが、やがて
「わかったわよ。ええ、そうね。確かにいつだって素直ってわけじゃないわ。あなたの言う通り」
「そうさ。だから珍しいんだ。今の君が」
千迅はいつになく嬉しそうな顔をして彼女を見つめた。
そして、彼女の手元の絵巻に視線を移す。
「私は、君の絵が好きだ」
彼の真摯な言葉に、彼女は人知れず胸を打たれている。
「だから相応しいものを書こうと思う。君に合うものを書けるのは私以外にいない。そう思っていてくれると嬉しいよ」
千歳は少し瞳を潤ませて、静かに、だが確かに頷き返した。
「ええ。……ありがとう」
辿り着いた先を、いつかの自分に見せてやりたい。
千迅は穏やかな瞳を彼女に向けて、そして、
そうしているうちに、昔の己も少しは受け入れられそうな心地になっていた。
心の奥でそっと暖かな風を感じながら。
