遠い昔、かいだ土煙と鉄のにおい。
そんなものを過去にして吹っ飛ばした、
果てしなく青い空を、君に見せたい。
「千迅」
そっと、千歳が千迅の肩に手を置いた。
千迅は少し微睡み、彼女の方を俯き加減で。
「ん……寝ていたのか俺は……」
千歳は少し驚いた表情をしていたが、静かに微笑む。
「ええ。そう。ここで寝ると風邪を引くわ。まああなたはとっても丈夫のようだけど」
「ああ……君だって。そうだろ。……」
「まだ眠そう。よっぽどいい夢を見ていたのね。夢中になって」
千迅は、千歳の冗談にも反応せず、ぼーっとしている。
千歳はそれを黙って見守っていた。彼はやがてそれに気づき、小さく笑った。
「はは、いや。懐かしい夢を見ていただけさ」
見たくもない夢を
千迅は目を細めてそれを瞳から、瞼から覆い隠す。
「起こして悪かった?」
「むしろ起こしてくれてよかった」
千迅は視線を落としたまま、しっかりと千歳の手首を掴む。
「今も昔も、君が起こしてくれる」
じっと握りしめた手に、だから君が必要なんだと想いを込めて。
「千歳。なんでもいい。今夜は俺を寝かさないでくれよ」
千迅の突拍子もない言葉に、千歳は思わずふき出した。
「真面目に言ってるんだが」
「ふふふ、ごめん。なんだか今日はいつものあなたらしくない感じがしたから……だって、そんなこと」
「なにが……」
千迅は自分が何を口走ったか思い返して、頬が赤く染まっていく。
「ばっ……違う、そういう意味で言ったんじゃない。いや、まあ別にそういうことでもいいけど、君がいいなら」
「それなら、永遠と絵巻語りをしましょう。あなたが眠れなくなるほどに」
「どうして君のそれは本気の脅しみたいに聞こえるのか、本当に一晩中させられそうで怖いな。……やっぱり、もっと別の形でさ、私たちの愛を育み……」
「まあ!これだって私たちの愛の結晶よ。それをいらないって言うのね。ひどい」
「君、ちょっと笑ってるだろ。私がそんなこと言うはずもない。からかうのもいい加減にしてくれよ」
「ふふ、やっといつものあなたに戻った」
彼女の瞳は今度こそしっかりと彼を捕らえて離さない。
千迅はそれほど釘付けになっていて、ああ、そうか、また彼女に――
彼はふうと大きく息を吐いて、すっかり肩の荷が下りた心地であった。
「あなたってたまに抜けてるわよね」
「君に言われたらおしまいだよ」
和やかな笑い声が響き、二人の夜はまだまだ終わりそうもない。