
「変化がはじまる時って、急にはじまったって感じるけど……何も変化がないように見えて、日々じわじわと変わっていくものなのよね。だから、一気に変わったって感じるのは不思議だけど、驚くことでもない」
「深いことを言うね。……分かるよ。自分自身の方が早いと思っていたけど、本当はもっとずっと色々なことが早く進んでいたってこと、実感する」
夜闇の中で、そっと語り合う二人の間には穏やかな時が流れていく。
「私ね。本当は絵ならなんでもいいと思っていたんだけど、そんなことはなくて、もっと自分の好きな風景、好きな場所、好きな小物、シチュエーション……好きな色も。もっと深く追求すべきだったってことに気付いたの。でも、それを分かったところで、ぱっと何か浮かぶわけでもないんだけど……」
小さな灯りがちらちらと向こうの方で見えて、千迅は千歳に耳を傾けながら笑みを浮かべている。
「そうやっていろいろな好きなものを集めていくうちに、なんとなく気付くのよね。ああ、こういうのが良いかもって。急に思いつく」
「それこそ少しずつ変化していたものが、一気に明るみに出て、大きな変化になる。君が自分自身で体現している。とても素晴らしいことだね」
自分だけの力では限界があるけど、成り行き任せで思ってもみなかった流れにのって、
身を任せるだけで自分の思った以上の場所へと辿り着く。
流れ着いた先が、こういう居心地のいい場所だと、最初から分かっていたら、
もっと抗わず、受け入れて流れゆくことができたのだろうか
それでも。
きっと今までのその抵抗も、ここに着くために、そしてこれからの自分たちに
必要であることを。
二人は確かに感じていた。
だからどんな道筋であったとしても構わない。
迷ったって、悩むことだって、結局辿り着く場所は同じ。
だったら、私たちはもっと自由に、ここに存在してもいいと強く実感できるはずだから。