
「あなた、いつも内面がころころ変わるのね」
「そうかな?俺はこれで気に入ってる」
風から現れた青年が娘の背後に降り立った。
「そうやって変化し続けるのはどうして?」
「君が求める男に近づきたいからさ。どうだい、ここはひとつ、変化して空を駆けてみないか」
「ふふ、遠慮しておくわ。私はこの姿が気に入ってるの」
彼女はすました顔で風に乱れた着物を正す。
彼はつまらなそうに息を吐いた。
「人の姿なんて退屈じゃないか。もっと遠くに飛んで飛んで、、風に、雲に、青い空。虹だって見えるかもしれないぞ」
「今度のあなたは冒険好きなのね」
くすくすと千珠が笑うのを、千風は不満そうにして眺めている。
「人だって、龍だって、中身は変わらないはずよ。あなたも中身が変わっても本質は変わらない」
「俺は変わり続けたいさ。凪いだ風ばかりじゃ、つまらない」
「変わりたいという願い、本質は同じってことよ。どんな姿でも。それがあなたの本質」
「……ふーん。なるほどね」
青年は妙に納得した顔で、不思議そうに娘を見た。
「さて、私はそろそろ主の元へ戻らなきゃ」
「君は真面目だね。主に似たの?」
「今のあなたは正反対ね。それとも、あなたの主の押し込められた本質の部分なのかも」
「さあて。俺にはさっぱり」
ははは、と笑い飛ばす千風に、千珠は呆れた顔で眺める他ない。
「じゃあ、私はもうこれで……」
「おっと、待った」
呼び止めた彼が彼女の手を捕らえ、青年らしく口元に晴れやかな笑みを浮かべた。
「主たちはいつも一緒だが、俺たちはそうはいかない。別々になるのは惜しいだろ。もう少しこのまま」
「私たちだっていつも一緒よ。主が共に在る限り。魂がそう語ってる。寂しがる必要はないわ」
千珠の涼やかな瞳には、彼の期待していたものとは違っていたのだ。気づけば彼女の手を離していた。
「……そうさっぱりと言われちゃ、何も言い返せなんだ」
「ふふ。……でも、あなたが本当に望むなら、もう少しだけ。ここにいてもいいわ」
彼の手にそっと触れた彼女に、
「お、気前がいいね。その意気だ」
千風が嬉しそうに笑うのを、千珠も満更でもない様子であった。
