
色とりどりの絨毯を歩きながら、ひそやかな会話が続いている。
落ち葉の上を歩く音に隠れるように、とても静かな声が微かに響く。
「あなたはとても不思議なお方だ」
「まあ。それを言うなら貴方こそ」
男は女を、女は男を、ただ者ではないと直感で悟っていた。
きっとただのしがない武家の若君ではない、そして中流といった風な半端な生まれではないだろう姫君。
もしくはお互い口に出せないような身分であるのやも、とまで男は考えていた。
その妖艶な瞳はただの高貴な生まれなだけの女性ではない。
果ては、全くもって真逆の、盗賊の娘であるかもしれない。
昼はたおやかな姫君、夜は美しい女盗賊などと、
勝手な妄想を男は繰り広げている。
それほど、男は普段の囲われた生活に飽き飽きしていた。
それは女の方も同じである。
権勢を誇る一族の生まれでありながら、全て決められた人生である。
ありがたみを感じてはいたものの、女にとってはときめきもなにもない。
だからこそ、お忍びで町中を歩き、侍女まで置いて出た先で、この男と出会った。
若い娘にとっては、これ以上胸を躍らせることはない。
「しかし供もつけずにこんな場所を歩いているなんて、不用心ですね。よほど腕に自信がおありかな」
「いいえ、そんなことは。ただ一人で自由に歩きたかったの。私を誰も知らないところで」
まだ暖かな風が彼女の髪を揺らしている。しかし秋も深まる季節である。
「なら、俺が声をかけたのもご迷惑だったかな?」
「ふふ、いいえ。むしろ嬉しかったわ。一人でいたかったけど、あなたの言う通り、無礼者が近づいてこないとも限らないもの。その時はあなたに助けてもらいます」
「先ほど会ったばかりだというのに、この信頼のされようは、さては今日は槍でも降るのだろうか」
「ふふふ、可笑しいこと。あなたはなぜか信じられるのです。私はそう思います」
「そうかな、俺はなにか化生の者かもしれぬのに」
「なら、尚更、私をどこか遠くへ連れ去って」
彼女の儚げな瞳を、彼は冗談のつもりが、その瞳を見て思わず息を飲む。
やがて、眉を少し下げて答えた。
「あなたと俺はこの一瞬だけなのですね。次の瞬間には変わってしまう。何もかも。このことも忘れ去られてしまう」
男は人生というものの無常を実感していた。
「そうでしょうか。私は、それが美しいとさえ思えます。確かにこうして面白い方に出会えたのだもの。ずっと共にいられないのは寂しいけれど、また再び、逢えることはできます。たとえ、今世でかなわなくとも」
「来世の約束ですか?」
「ええ、きっと」
姫君がそっと小指を男の小指に絡めた。
若君は、切なくも悲しさだけではない笑顔を見せて、
「その時は今度こそ、あなたを見つけます」
それはいつの日かかなうであろう、密かな魂の契約である。
この一時が、後の永遠となろうことを、若君と姫君は未だ知らない。
