朝、起きて軽く伸びをする。
澄んだ朝の空気感を身体全体で感じて、心が凪いでいく。
「おはよう、今日はとても良い気候だね」
背後から彼が声をかける。
「おはよう。そうね。この朝の透明な空気がいつも好きだわ。秋の空をいつでも感じられるみたいで」
「君の言葉の方がよっぽど明瞭で美しいよ」
「朝からどうしたの」
千歳は笑いながら返した。
が、彼が急に彼女の手を取り、布団へ引き込んでしまう。
「わっちょっと、もう朝なのに、離しなさい」
「いいだろ、もう少しぐらい」
千迅は子供のように布団にくるまり、彼女ごと抱き込んでしまった。
「もう起きなきゃだめよ、離してったら」
彼女がどう足掻こうとも、びくともせず、それは彼がしっかりと腰回りを捕まえているせいだ。
千迅は目を細めて訊ねた。
「今日は休もう。いいね?」
「でも私色々やりたいことが……」
「たまには俺の言うことも聞いてくれよ」
彼女はギクリと胸が高鳴っていた。
普段温厚な彼が、急に、そんな態度を見せてきて彼女はどぎまぎした。
「わ……分かりました、今日はあなたの仰せのままに」
「よろしい」
彼は先ほどと打って変わって、屈託なく笑う。
そんな様子に千歳も、ふうと息を吐きつつ微笑みを浮かべていた。