めぐる世の鏡合わせ

めぐる世の鏡合わせ


君の見える世界が、争いなどない

平和な世であることを切に願う


たとえ

この身が千千に引き裂かれ

焼き尽くされようとも……



「ここは……」


気づくと、そこには霧が立ち込めていた


最期の記憶を辿る。


ただ、焼け焦げた臭いと、なにか

とても痛烈ななにかから解放されたような

そんな気がして。




しばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて、霧のむこうから、誰かがやってくる

その姿が徐々に鮮明になってきた。


一人の女、どこかで、懐かしい、そんな断片的な感想が頭をもたげる。


「あなた、もしかして……きっとそうだわ」

女は、嬉しいそうにこちらを見た。


「君、俺のことを知ってるのか?」

「ええ。もちろん、知ってるけど、知らない、みたい」

「ん……それはどういう」


「それより、あなたに会えて嬉しい。ずーっと会いたかったの。あなたしかいないと思っていたから」

女は俺の傍に寄ってきた。

「いや……待ってくれ。俺はその、女というものには慣れていない。不用意に近づくなよ」

女は構わず、俺の手を握る。

「やっぱり、安心する。あなたと私の手、ぴったり」


警戒心の欠片もない、なぜだ。


「君は俺を敬遠しないのか」

他のやつらみたいに……そう、俺はずっと淋しさを抱えていた。
孤独感など、ありがちだ。けど、俺には堪えた。


「なぜ?そんな必要ないわ。唯一無二だもの。私も似たようなものだし」

彼女はあっけらかんとして笑う。

どういうわけか、俺はその笑顔に強烈に惹かれてしまうのだ。


「さ、一緒にいきましょ」

彼女は俺の手を引き、霧の奥へと誘った。

「え、おい、君……!」

「あなたここまで来るの、大変だったでしょう。本当に。だからもう頑張らないで。私にまかせて」

その力強い言葉に、なぜか涙腺が緩む。

気づけばぼろぼろと。

「え、ごめんなさい、なにか……嫌だった?」

「いや……君のせいじゃない、けど」


嫌だった。


何もかもが、黒い雲と争いの象徴、黒龍が跋扈して、俺は、どうにかなりそうで


どうにかしてくれよーー


そう天高く幾度となく。




「でも、もう大丈夫。ありがとう」

子供のように泣く俺を、ふわりと抱きしめてくれる。懐かしい匂いに包まれる。


「どうして、君が礼を」


「だって、あなたのおかげで私は、私らしくいられたのだもの。あなたが頑張ってくれたから、今の私がある。あなたが懸命に作ってくれた世界を、私は愛しく想うことができたのよ」


俺はただ、涙でぼやける彼女の顔が、見たくても、次々に流れる涙で、見えなくなってしまう。

見ることができないならせめて。


「君が幸せなら、俺はそれで」


彼女がふと笑った気がした。


「あなたも幸せじゃなきゃ」



それから、俺は彼女とずっとそばにいる。

以前の目を覆いたくなるような記憶を、君の笑顔と、優しさとで、日々刻々と癒してーー


「君の前ではこんな姿見せたくなかった、気がする」


「そうなの?私は人間らしくてそんなあなたも好きよ」


「~~っ!!どうして君はそう……もっと君にはかっこいい私を見てほしいと思っていたのに」

「案外泥くさい感じがかっこいい、て思うものよ。それに、そんなこと……関係ないし」


彼女は少し、視線を落として歩く道を見つめている。


「私はあなたとこうしていられることが、とても尊くて、好きだわ」


ふと、私は足を止めて、彼女が振り返る。


「どうしたの?……あ、もしかして疲れちゃった?ごめんなさい私、気づかなくて」



なにか、また言おうとした、彼女の言葉をそこで遮った。

ただ、そっと、その時を慈しみたいと、彼女と共に。



ふと、彼女の瞳を見る。


「……あ、」

みるみるうちに真っ赤になる彼女が、続けて。


「あなた女の扱いは慣れてないって……」


「私は男だ。やる時はやる」


「そんな……!聞いてない」


「嫌だったのかい?」


答えに詰まる彼女が、小さく首を横にふる。



「ならいい」

「よくない!もう……」

「これで少しは、いいところも見せられたかな」

「私だっていつでも余裕たっぷりのかっこいい私でありたいのに……あなたのせいで、もう、どうしたら」

「ふふ……私の前では、君はそれでいい」



彼女のあたふたした様子を、満足気に眺めた。

私も、この時が愛おしい。そして君が。

いつの間にか晴れていた霧が、鮮明に二人の仲睦まじい姿を映し出していた。