二湖恋龍伝【創作昔話】1章 黒龍と黒姫①

和みの宿の管理人、今留千歳です。

黒姫伝説、三湖伝説をミックスさせて、オリジナル(?)昔話を書かせていただきました!

実際の伝説とは異なる部分がありますが、興味のある方は是非お付き合いください(╹◡╹)

1、黒龍と黒姫

昔々、信濃国には美しく立派な山がありました。

山から遠く離れたところに住む村の人々は、この山を黒姫山と呼んでいました。

黒姫山には、黒龍と黒姫が仲睦まじく暮らしている、と伝えられています。

 

その言い伝えを確かめようと、黒姫山へ向かう若い村人たちがいました。

しかしどこを探しても龍神と姫の姿は見つからず、へとへとになって山を越えた先に、一軒の屋敷がひっそりと佇んでいるのを見つけました。

 

訪ねた屋敷には若い夫婦が二人住んでいました。

若い夫婦のうち、男が青白い肌に切れ長な瞳で怪しげな光を放ち、なんとも不気味な容貌でした。

女は、見目麗しく気品あふれる立ち居振る舞いだったので、青年たちも安堵して腰を落ち着けています。

 

ただ、何となく青年たちは男と屋敷全体に異様な雰囲気が漂っていると感じました。

 

それでも女は優しく穏やかに青年たちの笑い話に耳を傾け、口元をおさえて上品に笑うので、

 

「この方が例の姫ではないのか」「きっとそうに違いない」「では、あの男は龍神さま…」

 

仲間内でひそひそと話し合い、きっと黒龍が化けていると思っても当人の前で口に出すことなどできませんでした。

 

何せあの大嵐を巻き起こした龍神さまですから、青年たちもすっかり怯えてせわしなく若夫婦に別れを告げて、屋敷を出て行ってしまったのでした。

 

「せっかくのお客様でしたのに……どうしてここにいらっしゃる方は皆いつも足早に去って行ってしまうのでしょう」

「姫、そう気を落としますな。お寂しいのなら眷属の一匹でも人の姿にして置きましょう」

 

男はちょうど庭の池から跳ね上がった鯉に目線をやり、みるみるうちに小姓の姿へと変化させていまいました。

 

「黒雨さま、お気持ちは嬉しいのですけど……そうではないのです」

 

この男こそ、あの噂に名高い黒龍だったのです。

黒龍の本当の名は姫以外知る者はなく、姫にだけ自身の名を教え「黒雨(くろさめ)」と呼ばせていたのでした。

 

黒姫は沈んだ表情でいたので、黒雨は驚いてじっと姫を見つめます。

 

「ここの暮らしは嫌ですか」

「いいえ、決してそのようなことは。ですが、ずっとこうしてあなたさまと二人きり、というのは……」

「二人きりで良いではないですか。夫婦なのですから」

切れ長の瞳を細めて静かに笑う黒雨に、姫は浮かない顔をしています。

姫の様子に黒雨は少し思案した後、膝に手を置いて訊ねました。

 

「人は人の温もりを求めるものだと聞きました。私がこうして人の姿であっても埋められない何かがあると……?」

「黒雨さまに非はありませぬ。いいえ、私はきっとないものねだりをしてしまうのだわ」

 

姫はそこで言葉を切って俯いていましたが、黒雨は興味深そうに続きを促しました。

 

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