「ここは立ち入り禁止よ」
ふと三人の前に姿を現した女が一人、言葉とは裏腹に穏やかな口調で声をかけた。
「あ……申し訳ない。ほら行くぞ、二人とも」
「とっても綺麗な人」
雨月の促す手を受けながら少女、千歳は絵巻を包む手を開きたそうにしている。
「このお屋敷の主殿ですか」
かたや少年、千迅は大人びた口調で、彼女を見上げた。
「ええまあ、そんなところよ。あなたたちはどうしてここに?」
「いや、その。綺麗な庭園だったのでつい。一昨日こちらのお屋敷に招待されて、ご厄介になっている者です。もう戻ります」
「あら、待って。お客人だったのね。ここの女主人ともあろう私が把握していないなんて他の者に笑われてしまうわ」
彼女は彼らに近寄り、そのたび鈴の音が揺れて響く。
「少しお話をしましょう。それにその子たちの持っている書物。私とっても気になるの」
千歳は嬉々として彼女の前に躍り出て絵巻を広げた。
「私も見せたいと思ってたの。どうぞ」
まだ若龍の少女であるにもかかわらず、彼女の織りなす物語絵は緻密で星の如く輝きを放っていた。
千迅も、控えめながらも自信ありげに書を差し出した。
彼の書は、流れる川に紅葉を散りばめたような文字が踊り、彼の細やかな心情、そして観察眼を反映していた。
「とっても素晴らしいわ。二人とも。師匠の指導がいいのね」
雨月に視線をやった彼女は、優しい笑みを浮かべている。
「え、いや。まあ……二人の才能を認めてくださって嬉しい限りです」
雨月は照れ笑いを浮かべて少年少女の肩に手を置いた。
「驕らないのね。気に入ったわ」
彼女は雨月を見つめて、凛とした佇まいのまま立ち上がった。
「私は五十鈴。改めて、あなたたちを歓迎するわ」
彼女は三人を奥の屋敷へ誘った。
雨月は、気後れしつつも彼女の背をじっと見つめていた。