それはきっと目の前に

それはきっと目の前に

風が木々のざわめきを起こし、さらさらと髪を撫でる。

心地良い風を受けて、一人の娘は笑みを浮かべた。

その手には絵巻が大事そうに握られている。

すると、突然パタンと木から一冊の書が落ちてきた。

「あら……」

娘はそれを拾い、木を見上げると、青年が木の枝にもたれかかっている

「これ、落としたけど……千迅くん?」

青年は、眠ったまま娘の声に気付かない。


「そこで寝てると危ないわ。起きて」

娘が少し大きく声をかけると、青年は目が覚めすぐ身を起こした。

「あ、おっと、寝てしまってたか……あ、君」

青年はスタと地上に着地して彼女を見た。

「拾ってくれたんだね。ありがとう。あと起こしてくれたのも」

娘は屈託ない笑みを浮かべた。

「いいの。怪我しなくて良かった。ところで何を読んでいたの?」

「これ?そうだね……天体に関することが書かれてる」

「宇宙や星のこと?」

「うん。けっこう面白い」

彼女の手元に、既に握られていた絵巻を千迅は見た。

「それ……」

「あ、これは。その……まだ始めの段階なの」

彼女はそれを少し袖で隠す。

「君にとってとても大切なものなんだね」

「そうなの」

「微笑ましいな。大事な物事があるのが」

千迅は伸びをして、ふうと息をついた。

「あなたにはないの?大事なもの」

「そうだね。まだ見つかっていない。だからこういう本を読んで探しているのかも」

「そう……探しているものが見つかるといいわね」

「うん。ありがとう」

二人の間にそよ風が吹き、穏やかな時間が流れていた。

まだ若い、どこに行くのか分からない。

何をすればいいのか、何を目指せばいいのか分からない。

けど、確かに胸の奥の、心の奥にある、

それが分かる日まで日々追い求めていく。


道はどこからでもいい。

ただそこにいきたいと、自分が本当に求めているものから目を離さないで

一直線にそれを、天高く投げて望めば、そして置いておけば

自ずと道は開かれる。