華やかな調べに誘われて、薄紅の几帳の奥。
一人の娘が佇んでいるのを、青年は見上げ、
布の間をすり抜け、悠々と彼女の前に現れた。
「またあなたなの」
娘は、含み笑いを浮かべて青年を見つめる。
「私ではがっかり?」
「いいえ、そういうことではなくて……よく飽きもせずこちらにおいでになるから」
彼女、葉桜の姫は、袖で口元を隠し笑う。
「あなたがいないと暇で仕方ない。だから来たくなる。それだけ」
それ以外に何があるかと言わんばかりに、彼、五月雨は言い切った。
葉桜の姫は、不思議そうに訊ねる。
「私といると面白い?」
五月雨は大きく目を見開いて、やがて笑い声を漏らした。
「あはは、まあそんなところさ。曲解してもらっちゃ困るけど。しかし、これだから君といると面白いんだ」
二度自身の膝を叩いて、愉快そうにしている男を、姫君はどうしたものかと肩をすくめた。
ひらひらと舞う几帳の薄布が、二人の時を見守るが如く穏やかに揺らいでいた。