「もう一度聞かせて、黒龍さまのお話し」
星の如き瞳を輝かせてせがむ少女に青年は、ふと笑みを浮かべた。
「同じ話を何度も聴いてつまらなくないか?」
「いいえ、全然。つまらないだなんて、黒龍さまと黒姫さまに失礼よ」
「いや、あの二柱のことを言ったのではないのだが……まあいいさ。それで、どこから聞かせましょうか。若龍殿」
「もちろん、最初からよ」
少女は当然と言ったように得意げな顔をして、青年を見上げた。
青年は、大袈裟にため息をついて、心待ちにする少女に語りかける。
「今は昔、、、若い娘龍と、青年龍がおりました……二龍はとっても仲良しで、いつでも傍におりました」
少女は小首を傾げて青年を見上げた。
「お話しが違うわ、黒龍さまのお話し」
「まあ聞いて。……しかし、この二龍は以前は、遠くの池に住んでいて面識など全くなく、文でやり取りをするまででした。どちらか一方的ではない、お互いに愛の籠もったやり取りをしていて……二龍はそれだけでも満足だったのです」
少女はそれでも尚、真剣に聞き入っている。元来素直な少女である。
青年は続けた。
「それがある日突然、二龍の心が完全に通じ溶け合い、共に天地を創造していくことを誓ったのです。二龍だけの特別な世界を」
「それで?」
「おしまい。」
「え。それだけなの?短い」
「はは、実は私も続きは知らないんだ」
「短くて続きがないなんて……じれったいわ」
「私もそう思う、けど、絶対に続く、終わりのない物語だよ。黒龍の話よりきっと君を魅了する」
「なら、どうしたらそのお話しを聴けるの?」
「それは、君が成長して大人になった頃に分かるよ。きっと気付く」
「気の長い話ね……」
少女は嘆息して空を見つめた。
その様子を青年は、また笑い声をたてて見守っていた。