「時々思うのよ。私のやっていることって無意味じゃないかって」
未だ名前の付けられない感情を、そのままにぽつりと呟く。
私は彼女をじっと見つめた。観察にも近い。
彼女は浮かない顔をしている。
霧が晴れても、雲の上。
隠す間もなく隠されてしまうこの世界に、彼女の思いが露になるのは、私としては嬉しくもあり。
「こんなことしたってどうにもならない。誰のためにもならないかもしれない。わからないのに、こんなに思いを込めても無駄じゃないかって」
ああ。同じだ。
彼女は私と同じことを思っている。
状況は違っても。
ただひたすらに暗い夜道を歩いて、辿り着く場所が、何もない更地であったとしても
こんなこと続けられる?
「君が辛いなら、やめたっていい」
私は彼女の手をとった。
「でも。君がやっていることは無駄じゃないよ。それは断言する」
「……本当に?」
まだ、俺を信じてとは言えないのは、己の自信がないからだ。後からついてくる、と思いたい。
「ああ。もちろん。何度やめようと思ったってまたやってる。そうだろ?やめようがない。魂の衝動は止められない。誰にもね」
「あなたもそうだった?」
ふと笑って彼女を見た。
「君がいたら、きっともっと早く俺がやっていることは無意味じゃない、て気付けた。でもまあ、今こうしていられるなら、早くなくたって良かったんだ。辿り着いた先は、花園だったと、昔の俺に聞かせてやりたいよ」
「ふふ。……ありがとう。同じなのね。私たち」
同じことを感じていた、二人で。
「それに。あなたの言う通りなの。もうやめる!て泣きじゃくったって、結局また始めてる。私がやっていることがとても、とても大好きだから。たまにこういう疑問がわいてくるけどね、やっぱり、好きだなあて思うの」
「それはとても素敵なことだ。君の魂が求めることは、誰かの魂が求めていることに繋がる、私はそう信じてる。そして、私にとっても……君の笑顔が一番だから。そうやっていつでも笑っていてほしいよ」
気付けば晴れていた彼女の表情を、瞳を、包み込むように。
「あ、だめなの。今日は」
ばっと彼女の手が俺の口元に、封印でもするかのようで、少しもやつく。
「……どうしてか聞いていい?」
「だって。いつもあなたのペースにのまれるのは何だか癪だわ。今日は私のペースでいかせて」
「ふーん……まあ、いいけど。それで?君のペースて、何をするつもりなのかな」
「ふふ、今日は何もしない」
「ああ、俺が一ッ番苦手なパターン。でもいいさ。君がそうしたいなら」
どうせまたすぐ動きたくなる。
その直感が当たるまで、そう時はかかるまい。
私が守っているから、君は好きなように、と。
心の奥でそっと。