おみくじの行方

「これ、とってもいい案だと思わない?普通のおみくじが、楽しい絵付おみくじに」

「絵馬には絵が描かれているのに、おみくじには描いてないなんて、味気ないと思ってたんだ。君の発想はいいね。引く度楽しい」

社の前のおみくじ箱で、二人は談笑する。

しかし、引くごとに、千歳はため息をはく。

「どうしたの?何か嫌なことでも書いてあった?悪い事は書いてないはずだけど」

「いいえ。でも、あなたの絵のおみくじが出ないのよ。どうしてか。ちゃんと描いて入れたのに……」

千歳が考え込み、千迅は、じっと彼女を見つめた。

「私を出したい?」

「ええ。もちろん。当然でしょ。全種類出したいわ。特にあなたは……」

ふと千迅に視線をやった千歳。

彼は、少し含み笑いを浮かべていた。

「何よ。何か悪戯でもしたの」

「ふふ。いいや。ちょっと不機嫌な君の顔、珍しいなと思って」

「もう……嬉しそうで何よりよ。あなただけ出ないとモヤモヤするわ。ああ、またダブった」

「ふふふ……」

不満気な彼女と反対に、彼は機嫌が良さそうに笑みを浮かべている。

その顔を苦々しく見つめた千歳が、嘆息した。

「もういいわ。やめた。いくら引いても出ないんだもの」

「あれ、やめちゃうの?私出ていないよ」

「いいもの。あなた出なくても描いたのは私……」

それでも、おみくじ箱を見てため息をはく彼女。



「あれ、これは何だろう、ふむ……」

千迅が千歳の髪に手をかざした。なんともわざとらしいが、見てて微笑ましくもある、そんな表情で。

「おや、こんなところに可愛らしいものが。それ」

「……ん?」

ぱくりと、彼女が食べさせられたものは、赤い小さな果実……

「あ、美味しい。これって木苺?」

「君はさ、人の為に頑張り過ぎなんだよ。もっと肩の力を抜いて。自分を甘やかすんだ。そうでなきゃ、本来うまくいくものも、うまくいかなくなる」

「まあ。ふふ。……そうかもね。」

ありがとう、と彼女はひと呼吸おいて答えた。ふと頬が緩み、焦りの表情は消えている。


「さて。私を引かないの?」

「ええ?でもまた出なかったらショックだし……」

「ふふ。大丈夫だから引いて。別に外したって、いいじゃないか。おみくじの箱を開けてしまえばいい」

「まあ!だめよそんなズルしちゃ……」

「私だったら、君が出なかったらなんとしてでも取り出すよ。どんな手を使ってでも」

「……じゃあ、もう一度だけ」

ごそごそとおみくじ箱に手を入れて、取り出すとそれはまさしく……

「え。本当に出ちゃった。なんで、さっきまであんなに引いても出なかったのに」

「ふふ、だから言っただろ、大丈夫だって。私は君のためなら必ず出てくるよ」

「……出るまでだいぶ時間かかったのにそう言われてもね」

「はは、ごめん、ごめん。ちょっと意地悪だったかな」

それでも彼女は、満足気にそのおみくじを眺めた。

「待ち人来る……って。あなたこれまさか」

「このために書いたって?まさか。ふふ、どうだろうね」

その瞳は謎めいて、彼女にはそれを探り当てることなどできなかった。しかし、

まあ、確かにね、と。今度は満たされた心地で、ほっと息をはいていた。

さて、どちらが待っていたのか、彼もまた胸の奥で、ほっと息をつきながら。