「ああ。ようやく来たか」
荘厳な雰囲気の中、ゆらめく赤い糸は、それを弄ぶ、透き通った使いの悪戯か。
「ご無沙汰しております」
「うむ。そなたにしては少し時がかかったようだな」
「私を買い被り過ぎです。龍である前に人は人。捨てきれぬものも過分にありました」
「人の世というものは、どういうものか、そう聞いただけで思い起こすものがある……気持ちはよう分かるぞ」
ふと見上げた男は、糸をじっと見つめた。その中で、ゆったりと浮かんでいたそれは、ぴたりと止まる。
「だが、既に新たな契約を結ぶよう、さだめられておる。今まではそれとして、新たな道を歩むがよい」
「はい」
短くも、その返しに重みを感じて、男は満足気に頷いた。
彼女が去った後、男は、
「天の川で隔てることももう、必要はなかろう。二人を逢わせてやりなさい」
二度と分かつことのないように。
妙に煌めいていた二つ星が、歩を進める彼女の頭上でひときわ強く光を放っていた。