大事に守り続けた、あなたのその絵物語。
ひとつわたしに、いただけないか。
「この頃よく夢を見るわ」
「それはどのような?」
「暗闇にポッカリと浮かんでいる、龍神さまの夢」
「ははあ、それはまた意味深な」
そうでしょうと彼女は、嬉しそうにしている。
「それで?嫁取りにでも来ましたか」
彼は、少し茶化すように笑みを浮かべている。
「ふふふ、いいえ。お話しが好きなんですって。それで、何かひとつ綴ってほしいと」
「それは何かのお告げでしょう、きっと。描いて差し上げたら、何か褒美をいただけるのでは」
「そのために描くより、描きたくなったら描くわよ」
彼女は、無邪気な笑みを浮かべた。全く自由な絵師である。
「でも、その龍神さま、どこかで会ったような気がするのよね」
そう、確か、遠い昔だ。銀の光を纏った、それはとても懐かしい。
「なら、あなたと縁深い龍神殿でしょう」
「そうね……だといいわ」
昔、感じた心の空いた感覚はそれがいなくなったから……それは、きっと夢の龍神さまなのだろうか。
心の中で、仄かに灯った暖かさで、少し心の何かが埋まった気がした。