「貸してほしいの」
普段見せないような気迫で、彼女は、俺の羽織りを手に。
彼女の力強い手指から、その本気度が伺える。
「その後のことは、私のことは捨て置いても構わない」
深く呼吸をして、彼女から視線を落とす。
「一瞬だけなんて」
彼女の指が少し緩んだことで、悟った。
「俺はそこまで薄情な奴じゃない。君が思っているほど……」
「薄情だなんて思っていないわ。ただ、あなたを振り回してしまう自覚はあるから」
「だから少しの間だけ?」
黙って頷く彼女だ。分かっていない。
今のこの俺がどれほどあなたを。
「……分かった」
ふと息を吐いた彼女。安堵しているのは明白だ。
「でも。あなたがここまでだと言うまで、俺を使う権利はあなたにはある」
あなたの手に手を添えて。
「これは俺がしたくてしていることだ。それを忘れないで」
そう、いつ捨て置かれるかどうか、怖いのは俺の方。
俺の力なんて借りなくたって。もう十分彼女は大きな力を携えているのに。
だから、君が君自身の力に気付くまで、どうかそのままで、なんて。
我儘な俺の心持ちが、どうか彼女にばれませんように。