ああ、最初にあなたを見つけたその時に、「彼女」だと心と魂が一致する。
視線を外せない。何もかも視界があなただけに絞られて、景色がだんだんとぼやけていくのだ。
”あなたは私だけのものですよ”
そんな風に言えたなら、もどかしさと切なさと、ありきたり過ぎる心地もして
何を言えば良いのか分からない。
きっと彼女も私だと感じている。と思いたい。
「あなた……物を書くひと?」
思いがけずそのように訊ねられて、数秒戸惑う。
「書くより、読む方が専門です。まあ、たまに必要に応じて書き留めることもありますが……そういう君は、絵巻を?」
「ええ。いつも一緒なの」
彼女は絵巻を肌身離さず持ち歩いているようだ。なんと熱心な。
その一筋の輝きで、俗世に流されず、一心にそれに打ち込んでいるのが分かる。
「あなただって書いてみればいいのに。きっといいものが書けそう」
「どうしてそうお思いに?」
自分がどう見られているのか殊更気になる私は、興味津々で訊ねた。
「んーー……なんとなく」
”なんとなく”……そうだ、きっと名も知らず会って数分しか経っていない。
なんとなくが、重要なんだきっと。
「あなたの名は?」
「千迅です。あなたは……」
「私は、千歳」
「おめでたい名前ですね」
「ふふ、ありがとう」
”千歳”……心に抱いたその名を反芻して、味わう。
そう、名を知る前に知った、この感情こそが、特別で……名を知ったことで、さらに愛しさが増すのだ。
ふいにあの流星が、飛び込んできたように。
現れたあなたを、胸に抱く日を夢に見ながら。