「珍しいわね。あなたが物語を書くなんて」
千歳は千迅の書を一目見て、それが物語だと悟っていた。
と、いうより、彼の筆が少し迷いを見せた故に彼女はいつもと違う文を書いているのだろうと察したのだろう。
「たまには良いかと思いましてね。あなたの真似をしても遠く及ばないとは思っておりますが……」
「そんなことないわ、あなただって書こうと思えば書けるわよ。なんだってね」
千歳はいつも以上に興味をかきたてられた様子で、彼の物語を心待ちにしている。
「そこで見られていると……少し書きづらいんだが」
千迅は苦笑いで彼女に視線をやった。千歳は口元に笑みを浮かべてそれを自身の書で隠しやる。
「完成したら。いえ、いいところまで書いたら私に教えてね」
いち早く彼の物語を読みたい、それが彼女の本音だった。
「ええ、必ず」
そんな浮足立つ彼女の珍しい様子に、喜ばしく思う彼の脳裏には次の文章が浮かびつつあった。