いけしゃあしゃあと、よそ行きの顔をして、娘の前に現れる青年は、余裕あり気に
彼女の手を取り微笑んだ。
「几帳の奥からではあまりにもつれないではありませんか」
わざとらしい丁寧口調に、葉桜の君は、くすくすと笑みをこぼす。
「だって、まだあなたとはそこまでの仲ではないじゃない」
「まだ、というなら歓迎されていると受け取っていいのかな」
「ええ、まあ」
ふふふ、と笑顔が綻び、そんな彼女の顔を満足気に眺めている、五月雨の君。
「あれ。珍しく髪飾りをしていないんだな」
「ああ、そうね。すっかり忘れてた。急にあなたが現れるんだもの。バタバタしていて……」
「何にも縛られないのも、たまにはいいものさ。俺の前では着飾る必要もない」
「別にあなたのためじゃないわ。私が気に入って付けてるの」
彼女は顔を背けてしまったが、その頬は少し紅潮していた。
その様子を知ってか知らずか、彼は口元に笑みを浮かべて。
「さあ行きましょうか、葉桜の君」
その手を引いて、几帳だけが疾風に巻かれ、二人は忽然と姿を消した。