世界が緩やかに切り替わる時。
煤にまみれた着物を着替えて、君の隣で……
「わっ!」
びくうっ!と、擬音が聞こえそうなほど肩を震わせて、手のひらから離れた皿を
まだ生きていた反射神経で受け止めた。
「驚いたな……危ないだろ。割れたらどうする」
ほーっと息を吐きながら、少年、春之を窘める。
「篠一は絶対割らないだろ。油断するなよ」
春之は頭の後ろに手を回して、生意気に笑みを浮かべた。
「暇なら手伝え。お前も一応修行の身だろ」
「それは俺の仕事じゃありませーん」
くっ……いかんいかん。感情をなだめて深呼吸。
「春之くん、もしかしてお腹が空いたの?」
「あ、ばれたか。君には嘘つけないな」
菘の方へ駆け寄る春之が、媚びた目を向けた。
「朝餉の残りがあるから、良かったらどうぞ」
「ふふん、気が利くな、ありがとう」
喜び勇んで皿を手に釜の方へ駆けていく。
「あまり甘やかさないでください。つけあがるから」
「良いではありませんか。成長期なのですから……」
実際見た目ほど成長期などではない。俺たちより数百年は年上なのだ。魂年齢が近いだけで。
しかし
「あなたがいうなら……」
俺もどうしても彼女に甘くなる。人のことは言えないな。
ふうと一息つくと、彼女はにっこりと笑みを浮かべて俺を見た。
「この後お茶にしましょうか」
「ああ、それはどうも」
「俺も!茶!」
春之が懲りずに手を上げた。
「お前はお茶菓子目当てだろ」
苦々しく春之を見るが、彼はどこ行く風で、
菘は笑いを堪えきれずにいた。