若龍と姫龍

若龍と姫龍

泥の中をまみれて生き抜いてきた魂の前に

可愛らしい花がひとつ。

あなたと出逢えたなら、今までのことなど全て許せる。

……などと、実際はそのようなことはどうでもよくなっていた。

ただ目の前のあなたがいればそれで。

「あなたがあの黒龍さまの?」

鈴のような声に心が奪われて、反応が遅れてしまう。

「ああ……昔のことだ」

気後れして言葉少なな俺を、彼女は深くは聞かずににっこりと笑みを浮かべている。

「私も黒龍さまとは縁深いの。仲良くしてくださいませね」

このように真っ白な姫龍が、黒龍と縁づいているなどとは思えないが……

俺も深くは追及せず、黙ったまま可憐な少女のお喋りに耳を傾けていた。

「あら、ごめんなさい……私ばかりお話してしまって」

気恥ずかしさを隠すが如く、自身の口元を覆う。

暫くの無言の時が流れて……

俯き加減で真白い頬をうっすら染めた彼女に、心が綻ぶ。

「構わない。君のままで」

ハッとしてこちらを見つめ、静かに頷く彼女。

その瞳は、さながら夢のように耀きを放っていた。