全てが移り変わり、流れていく雲のように
様々に形を変えて現した姿に瞳を奪われた。
「彼の者からのお達しだ。導きに従うように」
「今まで従っていなかった?」
少女とも娘ともいえない彼女は、その月の光に包まれた存在に目を向けた。
少し自信がない様子で。
「いいや。君はよくやっているさ。ただ、前の場所に引っ張られてはいけない。君の未来は次の場所に在るのだから。それを彼の者は伝えたがっていた」
「そう……」
たとえ意志が強い者でも、迷う時はあるものだ。
そして昔を懐かしむことも。
「君はもっと自分を大事にすべきだ。そうすることで、周りに君を同じように大事にする者が集まってくる。背伸びをする必要はもうないんだ。自分に無理をさせる必要はもう微塵もない」
彼女は、少し惑ったが、やがて一呼吸置いて答えた。
「ありがとう。おかげで正気に戻れた」
「君はいつでも正気さ。それでいい」
ふわ、と彼女の周りをぐるりと取り囲み、そのまま空へと泳いでいく。
”彼の者は元気にしている”
と。彼女の心を包み込むように。
月の龍を見上げながら、彼女は心の静まりを感じていた。