深い海の底のように、静かだった辺りを。
飛び回る前は、妙に心が先に湧き立って、気を落ち着けるようにと隣で諭される。
「このようなことは久しぶりだ。鎮める方が難しい」
「それでも、急いては事を仕損じるぞ」
つとめて自分より冷静な君が、片割れの彼女に重なって見える。
「やはり似ているな」
「ん?」
「いや、なんでもない」
無防備に訊き返す瞳も面白く、クツクツと笑っていると、小さなため息を吐いた。
「そういうところ、お前のあれにそっくりだ」
ああ、似ているのは、我々も同じかと、
その一言で、心強くなってきた頃。
「そろそろ行かねば」
二人の背が離れて、潔く駆け抜け始めた。