扉の向こうへ

扉の向こうへ

気付けばそこに、侍う者は……

「ほら、噂をすれば」

「む……おぬしらいつの間に」

「呼ばれればいつでもどこでも現れますよ」

千迅が得意げに言うのに合わせて千歳も二三度頷いた。

「べつに呼んでなどいないが。君たちはなぜそのように神出鬼没なのか」

「縁結びの愛の戦士なので」

千歳が凛々しい瞳で言い切ると、今度は千迅が何度も頷く。

「おかしなやつらだ」

神峯は、呆れながらもくつくつと笑い声を漏らした。隣で白菊も、ふふふと笑みをこぼす。

「戦神でもあるまいに、戦士などと……普通の縁結びの神でよかろう」

「それでは面白味にかけるでしょう、それに神格はあなた方の方が数段上だ」

「修行中の身なので、色々と参考にさせていただこうかと……」

そう言いはするが、千歳の瞳は単なる見習いの視線ではなく、お目当てのものを見つけたが如く嬉々として輝いていた。

「あまり面白おかしく人を話のネタにすると容赦せぬぞ」

「まあ、そのようなことは決して……」

しかし、彼女は変わらず歓びの眼差しを向けていた。

「本当であろうな、千迅」

視線を千迅に移した神峯に対し、彼は

「彼女の采配に任せております」

いけしゃあしゃあと言い切った。

「そういうとこだ。まったく手に負えぬ」

「まあまあ、神峯さま。ただ何も言わず観察されるよりは、このように申し出てくれた方がいいわ。でもあまり千歳の好きそうな参考になりそうなことはないとは思うけれど……」

「いいえ、お二人を見ているだけで、こう頭のてっぺんからむくむくと湧いてくるのですよ。泉が湧き出るが如く」

「それより聞き捨てならぬ。今の言葉」

急に神峯が不機嫌そうに遮った。思わず白菊と千歳が顔を見合わせる。

『泉が湧き出るが如く?』

「違う!姉妹かおぬしらは」

「くく……はは、神峯どのは気に入らないんですよ、姫さまが言ったことが」

笑いを堪えきれずにいた千迅だったが、神峯の真意を分かっていたのはこの場で彼だけだった。

「と、いうことは、私の好きそうな参考になりそうな展開があると、期待していいんですね!?」

食い気味に千歳が訊ねると、神峯はだいぶ引いた様子で苦笑いを浮かべた。

「おい、ぬしはいつも冷静だというに、なぜそう絵のこととなると人が変わったように……まあいい。大いに期待していろ。目にもの見せてくれる」

「あ、あら、神峯さま、どこへ」

白菊の手を引き、神峯は堂々と笑みを浮かべて

「あれの好きそうな、参考になりそうなことをしてやろう。さて、どうしてくれよう」

「え、と、そんな神峯さま、お待ちください、冗談ではなかったの」

「いつだれが冗談だと言った、私の言葉やこの場の誰も嘘偽りなど申さぬぞ。おぬしが偽りだと本気で思っているならば。そのままにしてはおけぬな」

まるで神風が吹いたが如くの強風の、一寸の隙に、二人は忽然と姿を消していた。

「ああー!今のお二人のやりとりに気を取られて油断したわ。どうしましょう」

「あはは、ほんとに愉快で面白いな君は。しかし大丈夫、雲の流れを見ればどこに行ったかなんて一目瞭然……てあれ。」

見上げた空は雲一つない。

「じゃ、あちらが一枚上手だったということで、俺たちもどこか遠くに……」

「仕方ないわね……お二人のことは後で白菊さまに聞くこととして、帰って別の作品を仕上げましょう」

「え゛……別のって」

「今のでも十分俄然創作意欲が湧いてきたわ。早く帰って描き上げないと」

「えええ……」

ごねる千迅の肩袖を掴み、千歳は意気揚々と次の展開へと創造力を膨らませていた。