しとしとと鬱陶しい雨にも、利点がある。
雨音に全てがかき消されていくこと、それによって自分の感覚が研ぎ澄まされていくこと。
「こんなところ、早く抜け出したいものだ」
「急いてはなりませんよ。機を見る忍耐こそあなたには必要不可欠」
「分かってはいるが、いっそのこと、乱してでも前に進みたい時もあるさ」
そう言うと、男はスッと立ち上がり、まとわりつく龍の躰にそっと触れた。
「仕方のない主だ」
それでも、主が決めたこと、静けさの中に見出したその機会に違いない。
龍は雨霧の中に消えていき、男はハッキリと見えない前を進み始めた。