「彼はずっと本を読んでいるようだけど、一体何をあんなに熱心に読んでいるのかしら」
少女が、男の袖を引いて少年をじっと見つめていた。
片手には、彼女自身で描いた創造物が、小さな輝きを灯している。
男はふと笑って少女に穏やかな視線をやった。
「さあて。何かな、彼に聞いてみるといい。そっとね」
少女は、小さく頷くと、いそいそと膝を前に進ませ少年に近づいていく。
少年は本に夢中になっていたが、程なくして彼女の存在に気付いた。
「何を読んでいるの?」
少年は、目を二三度瞬き、本を膝に置いて答えた。
「唐の国の歴史書です。とても古い」
「面白い?」
「ええ、まあ」
「そう……邪魔してごめんなさい。どうしても気になって」
少年は少し驚いた瞳で、首を横に振る。
「いいえ。邪魔なんかじゃありません。決して」
少女もまた目を丸めていたが、にっこり笑みを浮かべた。
「私も歴史は好きなの。昔の物語も」
少女の言葉に耳を傾けながら、少年は本をそっと閉じて、
彼女の瞳を穏やかに見つめていた。