
「素晴らしい人と出逢ったんだ。この世界にもまだ俺がいる意味はあるかな」
「あなたがそう思うなら。きっとそうよ。あなたとその人の喜びを心から祝福するわ」
もうこうして話しかけるのも残りどれくらいだろう。
話しかけてくれるのもあと……
女は心が揺れたのも隠して精一杯の微笑みを浮かべている。
「君がいてくれてよかった。でなければ俺は今頃、時代の波に呑まれてどうにかなっていた」
少しずつ、霧に消えゆく彼女の姿が、男には見えていない。
だんだんと流れて消えてゆく雲のように。
「いつか、今度は俺が君を導いていくよ。まあ君にはそんな必要ないかもしれないけど」
「いいえ、きっとあなたが必要だわ。いつの時代もきっとそう」
再び、彼が瞳を開ける、が、そこには彼女はいない。
”ずっと見守っている”
ふわりと柔らかな風が最後に吹いて、男は、満足気にその青い空を見上げていた。