この世を君色に

この世を君色に

ああ、きっとあの時も。

こうしてたに違いない。

めくるめく世の中にあって、ひとつの花に出会い、

それはさながら、泥の中からやっと咲いた蓮の花。

「突然どうしたの」

目を丸くして、こちらを見つめる彼女。

慣れない浮遊感に、だいぶ戸惑っている。

「何だか急に君をこうしたくなったんだ」

そのまま旋回する俺を、彼女は困った表情をしながら笑みをこぼした。

「ふふふ、ちょっと待って、怖いわ、もし倒れたら……」

しっかりと抱きとめて離さない腕に力を込めて、

落とすものか、と。

口には出さず笑い飛ばして、彼女だけを綿雲の空に映していた。