ここで、このまま、こうしていたい、だなんて。

ここで、このまま、こうしていたい、だなんて。

「次はここへ行こう。何か発見があるかも」

羽織りをかけられるままに、楓に背を預ける葵。

「楽しい旅になりそうね」

何を喋るにも楽し気なこの雰囲気に永遠と溶け込んでいたい。

そう思わせる明るさが、榊には少し苦しくもあり嬉しさもあり。

自分だけが置いて行かれているような、寂しさもあり。

二人が穏やかならそれでいいかと思い直したところで、

「榊はどこか行きたいところはないの?」

葵がこちらに振り返り、楓までも瞬き自分の言葉を待っている。

「え、あー……そうだな」

ここで、このまま、こうしていたい、だなんて。

「ここでいい」

言うはずじゃなかったのに。

目を丸くする二人に、おかしいだろうかと視線をやるものの、黙ったまま何やらニヤニヤと見つめ返されてしまった。

本心だ、何を恥じることがあろうか、と自分に言い聞かせても、頬の火照りは誤魔化しようもない。

緩んだ口元を隠している癖に最初に口を開いたのは楓だ。

「じゃあ暫くこのままでいる?」

「ちょっと暑くない?」

葵の発言が若干羞恥心に追い打ちをかけるのもあり、半ばヤケクソで自身の羽織りを二人ごと覆い抱き込んだ。