ふと闇の中で踞っていて気づいた
俺の生きていた人生も、君に影響している
それが、君にとって苦しいことかもしれない
いや、きっとそうに違いない
「私、周りと比べてできることが少ないの」
彼女が振り返り、髪が頬にこぼれかかった
しばらく黙っていた後のことだ。
彼女は伏し目がちに呟く
「だから、周りに合わせることができない、周りができることが私には難しい。そんな私をどうにかしなくちゃって躍起になって、どうしたらこんな私でも生きていけるのか、ずっと模索して……今もそうなんだけどね」
俺は、心が何かぐっと抉られたような心地だ
ああ、きっと前に君が言ってくれたことと逆のことを叶えてしまっている
「それは………きっと俺のせいだ」
彼女の瞳をまともに見れず、もう存在したかも分からないその過去に思いを馳せる
「俺は、周りから期待されてきた。何でもできて思い通り、すぐに追いつく。だから、誰よりも上へ上へと、せがまれて、、従ううち月日が過ぎた。……そうして気づいたら周りに誰もいなくなってた」
俺についてこれる者は誰ひとりとして
孤独な世界は終わりまで付きまとう。
「だから、俺は願っていたんだ。ああ、無力でいられたら。どんなにか、俺は敬遠もされず、崇められることもなく、期待されず。周りと同じように夢を追いかけ生きていけるだろうか」
ただひたすらに退屈で、そして悲しい。
無気力で、次々逝った者たちを愛しく弔うことも、俺にはできずにいた。
最後に残された、俺は、夕暮れに風に吹かれて、、
「君にいい願いを託すこともできたが、悪い願いも託している」
「それは違うわよ」
彼女は今度は強く俺の瞳を射抜いた。
「悪い願いじゃない。あなたはずっと寂しかったのだわ。……それに、あなたのその願い、残念ながら叶ってないの。前に言ったでしょ。私も似たようなものだって。魂の本質はやっぱり変わらないのよ。どこにいてもいつの時代でも」
彼女は静かに続けた。
「叶ってないんだから、あなたは罪悪感を抱く必要ない。それとも、あなたはわたしを無力だと思う?」
しばらく彼女を見つめていたが、やがてふと笑い、
「いいや。そうは思わない。……俺がこう思うのだから、君はできることが少ないなんて言うなよ。それこそ間違いさ」
「……あなたに言われるとよりいっそう信じられる。自分のこと」
顔を見合せたふたりは、再び笑いあった。
「周りに合わせることができないのは、お互いに変わらない。君と俺はやっぱり同じなんだな―――」
男が女に近寄る。それを彼女は遠慮がちにかわして
「まるっきり同じってわけでもないわ。……あなたちょっと積極的だし」
「君は違うのか?」
「私、こういうことは慣れてないもの。自分からなんてとても。あなたは女慣れしてるのね」
「君だけさ。言っただろ、他の者とこういう親密な仲になる暇などなかったよ、男でも女でも……」
「それはさぞ大変だったでしょうね」
「でも今は違う、君とずっとこうしていられるなら、そんな時も無駄ではなかったし、悪くなかった。それに、まるっきり同じでないなら好都合」
彼女の髪に触れて、ああ、この真っ直ぐで濡れ羽色の黒髪は、一緒だと。
「同じ魂がひとつに溶け合ったら、一体どうなるのか、俺も興味があるね」
「私は興味があるとは言ってないわ」
「あれ、悲しいことを言う。そうつれなくされると拗ねてしまう」
「あなたそんな子供じゃないでしょう。もう、ちょっと、近い。昔の男ってみんなこうなの?」
彼女の手を捕まえて、ふふと満足気に笑ってみせた。
「今の女はこうまで面白味があって追いかけ甲斐があるのかい?」
ただ男に付き従うだけの女じゃ意味がない。
彼女は、困惑した笑みをこちらに向けながら。
それでも瞳は、真っ直ぐに俺を、心をも。もう一度射抜いて。
戯れの夜は永遠に過ぎていく。