
交わっていた世界には、いつでも君が傍にいて、それが当たり前だと。
だが、いつしかお互いが別々の世で与えられた世界で。
たった一人、たった二人。
どこにも存在しない、それぞれを追い求めて生を全うしていく。
そうして、辿り着いた先で、ああ。代わりなんてどこにもいなかったのだと。
心の奥底で、魂に刻まれている夢のようなひと時を思い起こしながら。
「あなたがどこにもいない夢を見たわ」
空き時間。手持ち無沙汰のままに、無言でいた中で突然彼女が口を開いた。
「何だか不穏な話のようだね。聞こうか」
男はそれでも穏やかな瞳で女に視線を向けた。
「大した内容じゃないわ」
「俺がいないことが大したことない?」
「違うわよ。暗い話じゃないってこと。分かって言わせてるの?」
「ははは、まあね。それで?」
ふと息を吐いた彼女が、気を取り直して続けた。
「どこにもいないあなたを想いながら、描き続ける夢。あなたがいないからこそ、どんどん描きたいものが浮かんでくるの。そうして大成する夢」
「へえ。そりゃすごい。俺を利用してかい?」
「まあ、人聞きの悪いことを。あなたがいないから描くのよ、あなたがいれば描く必要は……」
「ははあ、ごめん、冗談さ。でもそれなら、俺も本望かな」
女は男を不思議そうに眺めた。男はどこ吹く風で
「いつの時代も、君の心に俺が居続けるなら」
そう言い切ってしまうのが、どこか切ない気がして。
心もとなさを隠して、男は女の傍らに密かに寄り添った。
女はそれを知ってか知らずか、ふと口を開く。
「いつでもどんな時代でも、あなたに導いてもらえるなら、それほど心強いことはない。だからお互い魂だけで繋がっているだけだとしても……それがどんなに幸福なことだろうかと。あなたを通してそれを確かに感じていたわ」
「俺の導きなんて。君はさ、俺がいなくてもなんでもやれそうだからたまに俺が必要ないのではないかと不安になるよ」
「そんなことない、私にだってできないことなんて山ほどあるわ。道に迷う時だって多々あるし……」
「それだ。自信ある人の言葉。それを聞く度に俺はいじけるぞ」
「ふふ、あなたがいじける?それはそれで可愛らしいけれど。それこそ自信のある人の言葉よ。本当に拗ねる人はそんなこと自分から先んじて言わない」
「君にはなんでもお見通しだな。少しは真に受けてもいいんだぜ」
そうやってまた二人は笑い合う。
こんなたわいもない話で、時はすぐに過ぎていく。
めぐる季節を何度君と楽しめるだろう。
どのような姿形だったとしても。
ずっとこうして同じ時を味わっていたい、そうお互いに感じていた。