「それであんたは龍の化身か何かか」
彼は面白がり、興味津々という顔で訊ねた。
「まあ、そういったところよ。あなたと関わりが深い」
「そいつは面白い。一昔前も君と似たようなやつが傍らにいたが、いつしか消えた。それでも君は現れた」
彼は少し俯き加減で自嘲気味に漏らした。
世の濁流に押し流されそうになっている、その顔を静かに見つめることしかできなくてもどかしい。
「俺は幼い頃に蛇を助けたことはないがね、俺を婿取りするなら大歓迎だ」
彼の言う”蛇”とは、あの物語のことを指して言っているのだろう。
「悪いけど、そういうつもりで来たのではないわ。私はあなたに」
「それは残念だ。俺は今すぐにでも君のような存在に連れていってほしかったんだが」
彼は少し寂しそうにそれでも晴れやかな笑みをこぼした。
「連れて行くことはできないけど、あなたに助言くらいはできるわ」
彼と同じ地に立ち、柔らかく彼を見つめた。
「あなたは強い。本当は今でも龍の如く自由に空を飛べるほどの力を持っている。あなたがそう思えば今すぐに」
彼の瞳が一瞬の耀きを持っていたことを私は見逃さなかった。
「じゃ、俺が君の婿になることも可能ってわけだ」
「さっきは冗談で言ってると思っていたけど……それに私にはあちらの世界で心に決めた方がいるの」
困惑した笑みを浮かべていると、今度は彼の瞳が私の瞳をとらえていた。
暫くの沈黙の後、彼が口を開く前に私は風にのる。
「もう行くわ。覚えていてね、あなたは自分で思うよりも大きな力を、天をも動かす力を秘めているのだから。言葉の通り、あなたがそう思えば、そうなっていくんだから」
「また来てくれよ。嫁龍さん」
彼は懲りずにそう言って笑った。私の言葉を受け止めたのか受け流したのか分からないけれど。
あなたには、いずれまた。