「あなたのおかげでね」
ふと笑みをこぼして答えた彼女に、彼はいかにも満足気だ。
「それは良いね。ところで君、いつも恋愛系の絵を描く割にはそういうベタベタな展開が苦手だろう。一体どうしてだい?」
「さあ、どうしてでしょう。客観的に見るのと当事者としてでは感じ方が違うからかしら」
「ふーん……」
彼は手持ち無沙汰な様子で、袖を遊ばせていた。
「じゃあ第三者目線で見ている方が君にとっては、嬉しい?」
「そうね。まあ、単に好きなのよ。それが。嬉しい気持ちになって好きだと思う」
「好き、ね」
千迅は思いを巡らせていたが、やがて視線を外したままぼそりと呟いた。
「俺といろんなことしてみたら、、、あるいはなにかいい案が思いつくやも……」
なんて。彼は振り返ることもできず彼女の言葉を待った。が、彼女は何も言わず。
しびれをきらして彼は振り向くと、彼女は目を丸くしてこちらをじっと見つめていた。
「あ、なんか変な意味で受け取らないでくれよ。別に、たいしたことじゃなく普通にいろいろ……そうだな、たとえば、、、急に考えるが何も浮かばないな。」
言わなきゃよかった、彼は痛感していた。しかし、彼女は途端に笑い始めた。
「ふふふ、ありがとう」
「まだなにも言ってないぞ」
「いいえ、おかげでいい案が浮かんできた」
「ほんとうか」
「うん」
明るい彼女の笑みに安堵する彼。
穏やかな夜の秋の音が、月明かりの下、ふたりを暖かく包み込んでいた。