
「以前、神峯さまと白菊さまが舞っていたことを思い出したわ」
「ああ。あれは美しかったね。普段から舞っている者はやはり手慣れている」
千歳はやや伏し目がちに答えた。
「そうね……いつも内にこもりがちな私では、到底かなわないかも」
「はは、そうかな。人にはそれぞれやるべきことが天から与えられている。誰かと比べることもないさ」
千歳の心を瞬時に察する千迅は、ちらと視線を彼女に向けた。
「君がどうしたいか、心に聞いて。それで選んだ先に待つものはきっと、今よりもっと素晴らしい道につながっている。そうは思わないかい?」
「だといいけれど。先が見えないことは不安になることもあって、あまり自信が持てない時があるわ」
「ふふ」
突然、彼が笑い声をたてた。その様子を、彼女は不思議そうに見上げた。
「すまない。君がそう素直に心情を吐露してくれたことが嬉しくて。今まで気丈にしていたからさ」
「そんなに一線を引いていたつもりはないけど……あなたがそのように感じていたなら、きっとそうなのね」
「自信が持てなくてもいい。そのままで。その先に何が待っていようとも。それでも私は君と共に在りたいと思うよ」
それまで俯き加減だった千歳の心はほっと解れて、視線の先のその灯りをしかと見据えた。
「私も。ならば心のままに好きに舞ってみせましょう」
「うん。その意気さ」
自分の心に従って生きていくのは、一筋縄ではいかぬことも。自分の選択に自信が持てずに迷う時もある。
過去の自分に引っ張られそうになることも。
それでも、そのままで自分を信じて歩むしかない時
それこそ、自分の本来の道を進むときなのだろう。
どのような道筋であったとしても、君がいてくれるなら。
今までより、少しだけ自信が出てくる、そう思えてきたんだ。