ふたりして

「わたし、分かったわ!分かったのよ」

突然、彼女が駆け寄り、こちらを見上げた。

「え、どうしたんだい?」


俺は、何やら喜んでいる彼女の瞳を眺めてその意思を図りかねていた。


「やっぱり、あなたに話したら分かるようになるんだわ、本当にありがとう」


目を輝かせて俺を見つめてくれるけど、俺には何が何やらだ

だが、俺は彼女の喜ぶ顔が自分にとっての喜びである。自然と笑みがこぼれた


「珍しいね、君のその笑顔、初めて見た」


彼女は、はっとして、頬を少し赤らめる。

「ごめんなさい。わたし、つい興奮しちゃって……はしたないこと」


「そんなことないさ。それで?何が分かったの?」


「ふふふ。わたしが本当にやりたかったこと。それが今分かったの。前にあなたに話したでしょ、ずっと探してるって」


「ああ。言っていたけど」


「それで、自分なりにいろいろ試してみたら、ようやく分かったのよ。これだ!って。わたしが求めるもの」


「へえ。そりゃ良かったじゃないか」


俺は純粋に喜んだ、つもりだった。

しかし、彼女はふと、こちらをじっと見て


「どうしたの?あんまり嬉しくなさそう」


「いいや、そんなことない、嬉しいよ。君が嬉しいなら」


でも、なぜか、心がざわざわとしてくる


「ならまた忙しくなるね。そうか」


「そうなんだけど、、」


彼女もまた浮かない顔をして、


「一通りやってみて思ったんだけど、わたし、まだちょっと怖いの」


「怖い?」


「これでまた何も変わらなかったらどうしよう、て不安になる。大丈夫、て思ってもどうしても自信が持てなくて。これだ!ってはっきりしてるのに」


ああ、それで分かった。

きっと俺も。



「俺も怖い」


「あなたも?」


「ああ、武者震いってやつさ」


「ふふ。なんだかあなたが言うと面白い」


「なら光栄だね。……大丈夫。君には俺がついてるから」


彼女の手を取って握り、真っ直ぐその瞳を見つめた。

どこまでも青い空に白い雲、そして風と若葉思わせる、その純真で、、まるで旅に出たばかりの若侍のような、そんな瞳に。

俺も隣にいていいだろうか、と。




「すごい自信ね」


彼女は笑いながら俺の手を握り返す。


「自信があるのが俺の取り柄だ。それで上がりすぎて病んでしまったけど」


「あなた病んでなんかいないわ。病んでる人はそんな心強い言葉、出せないもの」


彼女は晴れやかに笑っていた



「わたし……あなたに、大丈夫って言ってくれて嬉しかった。ありがとう」



俺は今、この時は。静かに頷き返した。

彼女の言葉を真剣に受け止めていると、態度に示したかった、のだが。



「あれ、なんだか具合でも悪いの?」


「え、どうしてだい?」


「だって、いつもなら、この後いろいろ口説いたりなんなりするのに」


「俺のことどんなやつだと思ってるんだ」



呆れながら、しかし、そう思われても仕方がないのか?少し考えもしながら。

凛とした顔をしていた彼女が、無邪気に笑う姿を満足気に見つめた。