
心に重くのしかかっていたものをそのまま抱えながら、
なんとなく過ぎていく日々に。
淡い空と木の葉と、川面の前で颯爽と現れた君。
いいえ、それまでずっと隣にいて、ふと彼は訊ねてきた。
「いいかな」
何を、と言いかけて言葉を飲み込み、驚きのあまり
思わず声を上げた。
浅瀬の川の中を、彼は私を抱き上げたまま、
バシャバシャと駆け出し横断してしまうのだ。
「ちょ、ちょっと、ふふふ、あはは!」
何だか面白く、それまでの鬱々とした気分が吹き飛んだ。
「君はそうやって笑うんだね」
「ふふ、まるで初めて私の笑顔を見たような口ぶりね」
「だって本当のことだからさ。最近の君は随分と沈んでいたから。何も言わなくてもいい。今はただ、笑ってほしい」
彼女の一瞬の顔の曇りも晴らしてしまっている彼に。
彼のいつもと違う快活な一面に。
お互いがなくてはならない存在だと、再び強く認識するまでそう時間はかからない。