第五章 あなたとわたしと、これから

「ん……ああ……」

うたた寝から覚めた千迅に、千歳は笑いながら声をかける。

「よく眠っていたわ。何かいい夢でも見た?」

「昔の夢を見ていたよ」

ささやかな風がふたりの間を通り抜け、彼女は微笑む。

庭園では、すっかり馴染みの仲になった雪鷹と霙が、

屋敷の几帳の前では、訪れていた未だ慣れない関係の白菊と神峯が。

それぞれ楽しむ姿を見て、千歳は満足気だった。

「しかしここは平和過ぎる、また暇になりそうだ。恋の一波乱でも起きないだろうか」

そんなことを言いながら、千迅は千歳をじっと見つめていた。

「そうね」

彼は意外だと思い彼女の瞳をもう一度見上げる。

「私の愛の表現は、あなたに伝わっていないかも。だからよくあなたを拗ねさせてしまう。私があなたみたいなら、きっともっとうまく愛せるのに」

「君は俺になる必要はない」

千迅は、千歳がそこまで考えていたのかと知らず、驚き早口になっていた。

「なぜなら俺が君を愛しているから。それを君は受け取るだけでいい。どちらかというと受け取り下手なんだ君は」

そう言い切り、彼は真剣な眼差しで続けた。

「でも、そんな君も愛している」

伏し目がちな彼女は、ふと顔を背けた。

千迅は、彼女のその様子を見て、少々押しすぎたかと感じていた。彼にとっては少々なのだ。

「ごめん。また君を困らせたかな」

千歳の顔を覗き込む千迅は、また目を見開いた。

「見ないで。きっと私、今おかしな顔をしているから」

「え」

つられて彼の頬も少し赤くなっていた。

「また下手な受け取り方しちゃったかしら」

困惑した表情の彼女に彼は

「いや、とても綺麗だ」

そう聞いた彼女だったが、また何を勘違いしたのか、

「そう?綺麗な受け取り方ができたなら良かった」

嬉しそうにしている。

千迅は、そういう意味じゃないんだけどな、と若干呆れつつも、

まあ、いいか。と心の中でそれを暖めている。

風の吹くまま、気の向くまま。


このままふたり。これからも。