「ん……ああ……」
うたた寝から覚めた千迅に、千歳は笑いながら声をかける。
「よく眠っていたわ。何かいい夢でも見た?」
「昔の夢を見ていたよ」
ささやかな風がふたりの間を通り抜け、彼女は微笑む。
庭園では、すっかり馴染みの仲になった雪鷹と霙が、
屋敷の几帳の前では、訪れていた未だ慣れない関係の白菊と神峯が。
それぞれ楽しむ姿を見て、千歳は満足気だった。
「しかしここは平和過ぎる、また暇になりそうだ。恋の一波乱でも起きないだろうか」
そんなことを言いながら、千迅は千歳をじっと見つめていた。
「そうね」
彼は意外だと思い彼女の瞳をもう一度見上げる。
「私の愛の表現は、あなたに伝わっていないかも。だからよくあなたを拗ねさせてしまう。私があなたみたいなら、きっともっとうまく愛せるのに」
「君は俺になる必要はない」
千迅は、千歳がそこまで考えていたのかと知らず、驚き早口になっていた。
「なぜなら俺が君を愛しているから。それを君は受け取るだけでいい。どちらかというと受け取り下手なんだ君は」
そう言い切り、彼は真剣な眼差しで続けた。
「でも、そんな君も愛している」
伏し目がちな彼女は、ふと顔を背けた。
千迅は、彼女のその様子を見て、少々押しすぎたかと感じていた。彼にとっては少々なのだ。
「ごめん。また君を困らせたかな」
千歳の顔を覗き込む千迅は、また目を見開いた。
「見ないで。きっと私、今おかしな顔をしているから」
「え」
つられて彼の頬も少し赤くなっていた。
「また下手な受け取り方しちゃったかしら」
困惑した表情の彼女に彼は
「いや、とても綺麗だ」
そう聞いた彼女だったが、また何を勘違いしたのか、
「そう?綺麗な受け取り方ができたなら良かった」
嬉しそうにしている。
千迅は、そういう意味じゃないんだけどな、と若干呆れつつも、
まあ、いいか。と心の中でそれを暖めている。
風の吹くまま、気の向くまま。
このままふたり。これからも。