あなたとなら

あなたとなら

今まで過ごしてきた夜の逢瀬は、何度重ねても飽きることもなく

話も尽きることもなく。

穏やかに流れていく、何もない時に、

私たちはお互いを癒し合い、時には慰め合って生きていく。

「なぜ、何も言わないの?」

「なぜ、と言うと?」

彼女は伏し目がちに彼の手を見つめていた。

「私が目を合わせないのを」

「変に思わないかと、気にしているのかい?」

「ええ」


男は彼女の真意を瞬時に察していた。

それはお互いにとっては、慣れたことで……彼女はもともと彼に対してだけ照れて

目をあまり合わせないことも、お互いに今さらで分かり切ったことであったのだが、

彼女は今夜あえて彼に聞こうと決めていた。

「別に気にしない。そのままでいい」

傍らにいてくれさえすれば。

含みの込めた目で、彼女が目を合わせなくても彼は穏やかに見つめていた。

「それでもたまには、きちんとあなたの目を見て話しをするわ」

彼女と視線が合って三秒。まあ、もった方だ。

「真面目な話の時は目を合わせられるのに、どうして他愛無い話の時は合わせづらいのかしら」

「私に見とれて話す内容を忘れるとか」

「まあ!ふふふ。そうかもしれないわね」

笑っている彼女を見られるだけで、彼にとってはこの上ないことだと感じていた。