雪鷹、とは若龍の名だ。龍王の孫である彼を慕う者は多い。が、彼自身が慕う者は、数少ない。
慕われることに関し表面上だけかどうかは、雪鷹にとっては瞬時に見抜くことはたやすい。
そして真に信頼できる者も。
千迅や千歳だけを傍らに置いていたのもそれが理由だった。
重ねて彼が新しく出会う者に警戒心を抱くのも、生まれから当然の成り行きだったと言える。
姫君にはそれが痛いほど分かることであった。同じような立場なら尚更。
「わたしをよく思っていただかなくても構いません。でも、わたしは、これからあなたさまとの関係を育んでいきたい。どのような形であっても」
霙の瞳は、真剣だった。姫というには大人びて見える。
「信頼は一度だけで積み上げられるものではないと、よく分かっております」
雪鷹は黙ったままじっと彼女の眼差しを見つめた。
その瞳の奥をしばらく探るように。
「そうか。ならば君の自由にしたいようにしろ、俺も自由にする。どのような形でも、と申したな。それで信頼が生まれるならそれもよし。何もなければそれまでだ」
緊迫した空気、だったが、それを打ち破ったのは、未来の従者二人ではなく主である。
「俺は、物語の評価には厳しいぞ」
見上げた霙の瞳には、雪鷹の笑みが映っていた。
それを見て、彼女も可愛らしい微笑みを浮かべていた。
「さすが。龍王さまのお孫さまね」
「それはまたどういうとこが?」
「人懐っこいところ。それにお似合いの二人だわ」
「俺たちみたいに?」
千迅はそう訊ねて千歳に近づく。
頬に寄せてきた彼の瞳を、ふとかわして彼女は続けた。
「龍王さまと龍妃さまのようにね」
大きな灯のもとに、小さな灯。
それがまたより集まって、それぞれの灯りを広げていく。
少年が少女と共に、大きな存在となるのはそう遠くない未来。