「この格好、どこか変なところはないかしら」
白菊の姫君は、突然の若様の来訪の知らせに慌てふためいていた。
「姫さまはいつでもお綺麗ですよ」
その様子に、千歳はしっとりと褒め言葉を投げかける。
「君のそういうとこだよ」
千迅は、じっとりと千歳に視線をやった。
そこへ、障子の方から、すっと姿を現した青年が一人。
「そのままでよい」
居住まいを正そうとした千迅や千歳、そして白菊の姫に声をかけた青年は、無駄のない所作で腰を下ろす。
「突然押しかけてすまない」
「い、いいえ……」
姫は驚きのあまり、そして気恥ずかしさに視線を泳がせていた。
「このような不作法、姫には受け入れがたいのではと思ったのだが……実は、どうにも文は得意でないゆえ、直接会いに来た」
「まあそうでしたか……構いませぬ。少し、驚きましたが」
姫は平静を装っている。千迅は小さく鼻で笑いながら、
「そりゃあんな長ったらしい文読まされたら直接会いたくもなるさ」
「ちょっと」
千歳は千迅をたしなめるように彼の袖を控えめにはたく。
「本当は怖かったのだ。そなたにどう思われるか、何分こういう性格ゆえ、敬遠されないだろうかと。しかし、姫の人となりをこの目で直接見てみたかったのだ」
「私の方こそ、会いたいと思いながら、なかなか踏ん切りがつかなかったのです。でも一度会ってしまえば、本当にあっという間に言葉も出るものですね。文を書くように」
彼女は、うっすらと頬を紅潮させて伏し目がちに頷いた。
彼も、寡黙ながらしっかりと頷き、彼女をじっと見つめている。
「さて、あとは初々しいお二人に任せますか」
「仲人さんみたいな言い方」
ふふと笑みをこぼす千歳に、千迅は心外だとでも言いたげにムッとした。
「そこまで魂年齢重ねちゃいないさ」
「そう?でも、私たちなら縁結びだってできそうよ。いつか」
「いつか、ね。まあ君とならどこへでも。何だって楽しめそうだけど」
「光栄だわ。嬉しい言葉をありがとう」
礼を言うのに凛々しい顔をしている彼女に、彼は小さくため息をつく。
「だからそういうところだって」
一人でも生きていけそうな、そんな彼女に見えて、彼の心は少し不満気でもあり、
しかしそんな彼女に心底惹かれているのもまた事実。