桜の季節に舞い降りた

桜の季節に舞い降りた

忙しなく駆け抜けた季節にも、わずかな春が見え、

心が先に暖かさを感じるのは、人の優しさに触れたから。

「昔、あなたに教えられた」

神峯が、そっと白菊を抱き寄せた。

覚束ない足取りで、されるがままに彼女は彼の懐に寄り掛かる。

「昔?何のことでしょう。私には覚えがありませぬ。私はあなたに何かしたのでしょうか」

白菊はつとめて冷静に訊くが、神峯はその瞳に遠い過去を描いて

「さて、本当にそうであろうか、きっと魂が覚えているのだろう。だからこそ、今の己の魂も素直でいられるのだ」

「神峯さまにも素直でなかった時がおありなの?」

静かに頷き返して白菊の髪を梳いて撫でた。

「頑なだった。だが、その俺がいたから、今の俺が在る。俺の願いの結果が今ここにあると思うと、昔の自分に感謝の心が生まれてくる」

不足を感じた時が願いが生まれる時。

それを叶えるには望むだけ。

その望んだ結果が、今の神峯にもたらされているのだと。

彼は、心の奥でじんわりとした暖かさ、魂の震えに気づいていた。

それこそ、自身の過去への感謝によって、祝福されていると、

魂から魂への祝いが彼の気持ちを暖かくさせている。

未だ明けない冬の空にも、彼の心には晴れやかな春の気候にすら思えてきたのは

そういう言葉では言い表し難い、魂の奥底から湧き上がる思いによるものであった。