
「私と共に生きてはくれぬか」
穏やかな午後が過ぎて、夕方が迫る頃。
その男は突然現れた。そして女の手を取り……
女の戸惑いは言うまでもない。
「私は、私には既に共に生きている者が、、」
「そ……それは、まさか他に好いた者が」
男の衝撃は計り知れない。しかし、女はすかさず
「い、いいえ、そういうことではないわ。その……」
彼女の背後にゆらめく、二匹の龍。
それを横目で見て、再び男を見上げた女は、困ったように笑みを浮かべた。
「それに、私にはもったいない話だわ。あなたほどの人なら他にもたくさん候補となるひとがいらっしゃるでしょうに」
「あなたでなくてはダメなんだ」
男の真っ直ぐな瞳に、女はたじろいだ。
二匹の龍はそれを、静かに見守る。
一匹は、穏やかに。もう一匹は品定めするように。
「龍たちには名前はあるのかな」
「いいえ。傍にいてくれるけど、名付けたことはないわ」
「それはさぞ二匹とも寂しいだろう」
二匹の龍は瞳を瞬かせた。そんなこと、問題ではないと言うように。
しかし男は得意気になって、
「どうだろう。私たちと同じ名を付けてみたら」
「私たちと同じ名前?」
「そうさ。まるでこの二匹のように末永く共にいられるように」
男は一人盛り上がっているが、女はどこかついていけなさを感じている。
そして二匹の龍も同様に、首を傾げていた。
「あれ。ダメかい?私だけかな、良く思っているのは」
「まあ、でも、良いかもしれないわね」
女は躊躇いもありつつ伏し目がちに答えた。
「ふふん、よしじゃあさっそく」
新たに名付けられた龍たちは、雄はたいへん不服そうだ。なぜなら男と同じ名であるから。
雌龍は、たいへん嬉しそうに、彼女と同じ名を愛しく思っている。
「これで私たちも永遠に一緒さ」
「うーん……どうかしら、あなた次第」
「え”っ……」
控えめながら、したたかでもある彼女の品定めもまだ終わってはいなかった。
